REVIEWSレビュー


ロンドン劇評より大騒ぎなダンスの嵐を跳ね上げた「シンギング・イン・ザ・レイン」11

ー ブルームバーグ 記者:ウォーリック・トンプソン

アダム・クーパーがドン・ロックウッド役を演じる「シンギン・イン・ザ・レイン」がロンドンのパレス劇場で上演中。この劇場版ミュージカルはオリジナルの1952年のヒット映画の構想にほぼ沿ったものとなっている。
アダム・クーパーとスカーレット・ストラーレンがロンドンのパレス劇場で「シンギング・イン・ザ・レイン」に出演。ドンとキャシーのラヴ・デュエットを映画の撮影現場で行うなど、映画版とは違った場面もいくつかあるが全体的にはジーン・ケリー主演の傑作映画の有名な場面を再現した。
注:シャワーを浴びたい人は、この新ミュージカル「シンギング・イン・ザ・レイン」で前から5列以内の席を取ること。

有名な題名通りの場面では、10トン以上の水がパレス劇場の舞台を水浸しにし、主役の人気無声映画俳優ドン・ロックウッドを演じるアダム・クーパーが、多いに楽しみながらその水を観客めがけて蹴り散らす。
この、トーキー映画の出現を描いた1952年のスタンリー・ドーネンとジーン・ケリーの共同監督映画が舞台化されるのは今回が初めてではない。しかし、ここまで目が飛び出るほど元気で詳細な振り付けを生の舞台で見せるのは、おそらく初めてだろう。ロイヤル・バレー団の元プリンシパル、クーパー氏がどんなに小さな動きでも意味と感情をこめて丁寧に演じ、ミュージカルコメディーの手法そのものでそれぞれの踊りがいとも簡単であるかのように見せている。
作品全体を通して、振付師アンドリュー・ライトは、映画版の有名なステップを数多く引用した。「グッド・モーニング」の曲の終わりに3人の主役がソファーの上で踊る場面もオリジナルに沿っている。(ソファーだけは公園のベンチを使っている。)エボニー・モリーナが妖婦役シド・チャリスをセクシーな役に作り変えて踊る「ブロードウェイ・メロディー」バレーは、元気一杯なバージョンになっている。
曲によっては映画版よりも更に豪華に演出されており、ドンと友人のコズモが発音コーチ(デイヴィッド・ルーカス)を訪ねる場面では陽気な早口言葉のような歌「モーゼズ・サポーゼズ」を3人で踊る。映画では、コーチは上着のボタンをしっかりかけたただのボケ役にすぎないが、今回は殻を破って主役達と同様に動き回る。これは楽しい。

帰宅するまでずっと歌い続けてしまう

ー ★★★★★ デイリー・テレグラフ 記者:チャーリー・スペンサー

この「シンギン・イン・ザ・レイン」の舞台版はチチェスターで昨年夏に集中豪雨の中初演を迎えた時、最高に素晴らしかった。今回ウェストエンドに移り、明らかに不安と憂鬱な灰色の日々が果てしなく続く今日に相応しい、強力な刺激剤として更に良くなった。
もし、これで顔にうつろな喜びのはにかみを浮かべてチャーリングクロス・ロードをダンスして帰りたくならなかったら、何があっても元気になれないあなたは、みすぼらしい病的な欝に侵されてしまったとしか考えられない。
1952年の有名映画が恐らく映画ミュージカルの最高傑作で最も人気がある作品であったにも関わらず、1980年代にはロンドン・パラディウム劇場でトミー・スティールが主役を演じた舞台版により格別に楽しい作品へと生まれ変わったという経緯を考えると、今回の舞台の成功は画期的である。
この骨の折れる興行は映画の魅力と興奮はほぼ完全に失ってしまった。しかし、ジョナサン・チャーチによる見事な舞台化、そしてアンドリュー・ライトによる(ジーン・ケリーのオリジナルダンスから明らかにインスピレーションを受けてはいるが)ワクワクするほど独創的な振り付けは、驚く程明るい独自の新しい方向性を見出している。ほぼ3時間ぶっ通しで楽しみを与えてくれる。
トーキー映画のハリウッド到来のストーリーは、魅惑的な映画『アーティスト』のオスカー受賞により現在大人気だ。「シンギング・イン・ザ・レイン」は『アーディスト』の愉快な繊細さやずる賢い機知は持たないかもしれないが、大胆で楽しいユーモアと惜しみなく元気で明るく心地よい音楽により、それを克服する以上の効果を出している。
ベティー・コムデンとアドルフ・グリーンの脚本には、卓越したギャグや深い感情のシーンが無数に散りばめられ、また舞台版として登場人物達が撮影中という設定の映画のフィルムを華々しく面白おかしく利用している。
キャストも最高だ。ジーン・ケリーの威厳あるステップに負けを劣らないことは容易ではないが、元ロイヤルバレエ団のスター、アダム・クーパーは、ドン・ロックウッド役を魅惑、ユーモア、無頓着と見事に素早い脚の動きのコンビネーションで演じている。この作品でアダムがミュージカルの次世代大物スターであることを確固たるものにした。歌には感情が素晴らしくこもり、劇場全体を明るくさせる一種のカリスマをにじみ出している。
スカーレット・ストラーレンは甘い無邪気さとほのかな辛辣さを混ぜながらドンの恋のお相手キャシー役を演じ、ダニエル・クロスリーはコズモ役を見事なコメディーのセンスで演じて楽しいコメディー曲「メーク・エム(ゼム)・ラフ(彼らを笑わせろ)」に様々な新しく独創的な視覚的ギャグを加えた。
キャサリン・キングズリーは、愉快に甲高いキーキー声のヌーヨイク(ニューヨーク)訛りのせいでトーキー映画によりキャリアが脅かされている意地悪な銀白髪の映画スター、リナ・レイモント役をこの上なく幸せでかつ滑稽なパフォーマンスで演じている。
キングズリーの哀愁と卑劣な悪意を掛け合わせるスキルは、あと一歩で奇跡と呼べるほどだ。しかし、作品全体はある種の奇跡であり、例えばテーマソングの舞台化は、観客が喜びが喉から漏れるほど見事で、実際、舞台そばに座った観客はびしょ濡れになる。
真の歓喜を与えてくれること間違いなし。